
本年は日本にd-ROMsテスト(酸化ストレス測定)・BAPテスト(抗酸化力測定)などのCarratelliパネルが導入され、10年目となります。 年頭に当たり、酸化ストレス・抗酸化力測定の意義をIORIO教授の文献より引用し記させて頂きます。
ヒトを含むあらゆる生物では、いわゆるフリーラジカルの産生と、抗酸化防御システム間の微妙な均衡が保たれている。 この均衡が崩れると(酸化ストレスと呼ばれる状態)、細胞傷害を誘発し、重篤度は様々であるが、最終的には、長期間にわたって、早期老化や多くの疾病をひき起こすことになる。 酸化ストレスは異常に増加したフリーラジカルが、細胞や身体組織に傷害作用をもたらすことによりひき起こされる病的状態である。酸化ストレスは、フリーラジカルの産生が増加したことによる直接的な結果であったり、フリーラジカルに対する抗酸化防御の生理的活動が低下したことによるものである。 フリーラジカルとは一つの原子あるいは原子群で、外殻軌道が電子対ではなく、不対電子を有するものである。 アンチオキシダントとは、フリーラジカルの障害作用を中和する能力のある化学物質、あるいは生体内物質である。ある種のアンチオキシダント(例、スーパーオキシドジスムターゼやカタラーゼ)は内因性、つまり、身体に普通に存在するコンポーネントであり、また外因性のものもあり(例えばビタミンC、E)、外部環境(例えば、果物や野菜)から摂取しなければならない。
図1 ヒドロペルオキシドによる組織損傷モデル
健康な状態では、身体は本来持つアンチオキシダント防御システムがあるため、フリーラジカルの産生を予防することができる。この名前からわかるように、これらの抗酸化物質はフリーラジカルのオキシダント作用に対抗する能力を有する。 そのようなシステムの効果が低下することが、関与する機序がどのようなものであれ、アンチオキシダントの絶対的あるいは相対的欠乏の相当大きな原因となる。 抗酸化防御をかいくぐったフリーラジカルが、身体の生化学コンポーネントを攻撃する最も多い機序は、いわゆる"ヒドロペルオキシド"を産生することである(図1)。 この病態生理モデルでは、細胞は、外因性ストレス因子(物理化学的、生物学的エージェント)ならびに(もしくは)細胞自体の代謝活性のため(とりわけ、細胞膜、ミトコンドリア、ER、細胞質ゾル)、次第に多量のフリーラジカルを生産しはじめる、そのようなものの一つがヒドロキシルラジカル(HO・)であり、最も危険な活性酸素種(ROS)の一つである。実際ヒドロキシルラジカルは、あらゆる種類の分子を"攻撃"できる(炭水化物、脂質、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、核酸など)。 この結果、ラジカル連鎖反応が始まり、酸素分子(呼吸による)の存在下で、ヒドロペルオキシド(ROOH)の産生を招く。ヒドロペルオキシドは活性酸素代謝物(ROMs)の一つである。ヒドロペルオキシドは比較的安定な化学物質種であるが、フリーラジカルを再度産生して、他のターゲット分子を酸化できる能力を有する。 このため、細胞はヒドロペルオキシドを外部環境、つまり細胞外マトリックスに押し出し、最終的には、血液や脳脊髄液、胸水などの細胞外液に放出する。 血管収縮が続いたり、血栓により血流が長期間妨げられ、虚血状態が誘発されると、微小血流中で利用可能な酸素の量が低下する(低酸素)ため、細胞は無酸素代謝を開始し、それに伴って微小血管に酢酸を含む酸性代謝物を放出させる。 pHが低下した結果、トランスフェリンやセルロプラスミンなどの遷移金属キャリアタンパク質の立体構造を変化させる場合がある。さらに低pHによりトランスフェリンの立体構造が変化すると、キャリアからの鉄の放出が誘発され、その放出された鉄が、最終的に、いわゆるフェントン反応と呼ばれている反応の触媒の役目を果たす。この反応で、ヒドロペルオキシドはアルコキシルラジカル(RO・)とヒドロペルオキシラジカル(ROO・)に分解される。この2つのラジカルはともに、内皮表面あるいは循環血液中のリポタンパク質を酸化させる能力があり、そのため、アテローム硬化が生じやすくなる。 ヒドロペルオキシドは(細胞に由来するため)酸化ストレスの証人あるいはマーカーであるだけでなく、初期の損傷を全身にまで増幅する能力も有する(細胞外液に移動して循環できるため)。
生体内のフリーラジカルを測定する確定的検査法は、電子スピン共鳴法(ESR)である。残念なことに、この検査法は極めて複雑なテクニックを用い、ある種の専門家が必要である。これらのものは、一般的な臨床検査施設にはない。さらにESRは検査コストが高い。 このような理由から、ESRはルーチン検査やスクリーニングには用いられておらず、研究目的に使うことが多い。とりわけ、酸化ストレスの検査法として提唱された検査法の妥当性を検証するのに使われる(golden standard)。ESRは適切に実施されればフリーラジカルに関するもののみの直接情報が得られる。一方酸化ストレスは、プロオキシダント因子とアンチオキシダント因子の均衡が破れた結果である。 酸化ストレスを評価する最も特異的な検査法は、組織ならびに(もしくは)細胞外液中のオキシダント攻撃(例、ヒドロペルオキシドレベル、グルタチオンペルオキシダーゼ活性)ならびに(もしくは)アンチオキシダント系の一つあるいは複数のコンポーネント(ビタミン類、ミネラル、酵素)の濃度/活性低下により身体内に現れるフリーラジカルの産生と排出の不均衡を測定するという一般原理に基づいている。 とりわけ、生物内で、その他の方法ではルーチン的にフリーラジカルを検出できないものを、酸化攻撃を受けてきた分子種の存在のエビデンス(組織中、あるいは細胞外液中)を調べることで評価している。過酸化は、酸化的損傷により誘発されるフリーラジカルの産生に関与している最も一般的な機序であるので、血中ヒドロペルオキシド(ROOH)ドージングは、身体が受けている酸化的損傷の程度に関する極めて信頼性の高い情報となり、酸化ストレスのオキシダントの忠実な"指紋"となる。 一方、錆びの産生−第一鉄(Fe2+)から第二鉄(Fe3+)への遷移−は、自然界で最も一般的に生じる酸化プロセスであり、鉄は身体内に普通に存在している。そのため、血漿サンプルが、第二鉄から第一鉄に遷移する能力は、生体サンプルのアンチオキシダントの量を示す一つの尺度であると考えられる。
1/2 次へ